あの頃と今

もうずいぶん前になるけれど、カレラのジャシュの通訳として日本へ行ったときの事。

ワインメーカーズディナーを終えてエレベーターに乗ろうとしていたときに、一人の男性が聞いた。

「ブルゴーニューのどこのワインを目指してますか?」

「どこのワインもゴールにしてませんよ。カレラのピノを造ってます」とジャシュ。

今でも、こういう質問がよくあるのかしら?

その昔、ようやくカリフォルニアワインが世界に認められ始めたころ、「貴方のシャルドネはブルゴーニューのモンラッシェのどこそこのドメインのワインを髣髴とさせる」とか「ボルドーのどこそこのシャトーのワインを思わせる」とか言われると、造り手は満足げににっこりと笑ってうなづいたものだ。

その後、特にナパのカベルネが世界から注目されるようになったころから、ボルドーから学ばなくてもいい、ナパに師と仰ぐ醸造家がいるからという若手の醸造家まで出てきた。

そして今、IPOBが日本でも話題になったけれども、このグループのメンバーの中にはブルゴーニュー参りをする醸造家が少なくない。このことは決してマイナスじゃない。ただこのグループが「ブルゴーニューのワインを目指して造ってます」と試飲会で言わないでほしいと心の中で祈っていた。せっかく、前代の醸造家たちがカリフォルニアじゃなくてはできないワインを造るという基盤を固めたのを壊してほしくないと思ったからだ。IBOPの代表者は公の場では、ブルゴーニューじゃなくてカリフォルニアのワインを造ると話していたので、ほっとした。

話に聞くと、オレゴンの醸造家はワインがブルゴーニューのようであることを語るという。

カリフォルニアのトップクラスのワイナリーはブルブルゴーニューやボルドーのワインをコピーしていない。多くの人がヨーロッパのクラシックなワインと比較することが多いのは現実だけれど。

ヨーロッパのワインはカリフォルニアの醸造家たちに重要な影響を与えている。でもそれは品質の向上と構成ということでのみだ。

もうお気づきだと思うけれど、ここ5年くらい(数字は正確ではないかもしれません)カリフォルニアのワインはヨーロッパの高級ワインの特色とされるエレガントでフィネスをもったワインに近づこうとしている。でもそれはヨーロッパのワインの地区の特色と味に近づこうとしているわけではない。

だからカリフォルニアの醸造家に彼(彼女)が造るワインのスタイルについて質問すると、答えはそのブドウが育った地区とか畑についての説明から始まると思う。畑の個性を無視して、ヨーロッパのどこそこみたいなワインを造ろうとする醸造家は、多分、もういないだろう。

もしカリフォルニアワインのセミナーとかワインメーカーズディナーに参加されて、質問する機会があったら、例えばロシアン・リヴァー・ヴァレーの畑のブドウから造ったワインだったとしたら、この地区が生むスタイル、同じ地区内でも畑によってスタイルが違っていたら、なぜ違うの? 違うワインにる要素は何?なんてことを質問したら、いいと思うんだけれど、、、。